セラピストにむけた情報発信



文献紹介 「脳の情報表現を見る」



2008年12月1日

本日紹介する本は,大脳皮質の各部位の主たる機能について一定の知識を学んだ頃に読むことをお薦めする本です.


櫻井芳雄 脳の情報表現を見る.京都大学学術出版会,2008


fMRIの画像がテレビの教養バラエティ番組に盛んに登場する時代になり,今や一般の人ですら「前頭葉は〜をする場所だ」といった知識を有しています.脳の特定の部位が特定の機能に特化していると考え方は,「脳の機能局在説」とも呼ばれ,fMRIやNIRSのような脳の非侵襲的計測研究を支える重要な考え方となっております.

今回紹介する本において著者は,脳の非侵襲的計測研究の重要性を十分に認識しつつも,「前頭葉は〜をする場所だ」といった過度に単純化した,紋切り型の脳理解の風潮に警鐘を鳴らしています.

以下に示す2つの記述は,専門家にとっては当り前の知識なのですが,初学者の方々には必ずしも理解されていない重要な事実であり,この本における意義深いメッセージの1つとなっています.
  • (脳の非侵襲的計測の研究について)「脳のどこが強く活動しているかということは,脳のどのあたりで情報が表現されているかということを示しているに過ぎず,情報の実体(を)明示しているわけではない.(略)もちろん,そのような研究も非常に大切であり,その積み重ねも脳の情報表現を解明する上で不可欠である.しかしそれは,情報表現により関わっているだろう場所を指摘しているだけであり,脳が表現する情報そのものを表現しているわけではない」(p.7−8).
  • ある課題を行っている時に得られるfMRIやNIRSの測定値は,確かにそのときの脳活動を表しているが,それは活動の絶対値ではなく,課題を行っていないときの脳活動と比較した相対値にすぎない.(略)あたかもある課題を行っている時はその部位だけが活動しているかのような印象を与えるが,これは脳活動の実態を誤解させるものである.」(p.9−10)
これら2つの記述は,いずれも第1章に紹介されています.このような話を初めて聞いたという方は,第1章だけでも読んでみてはいかがでしょうか.なお,それ以外の章においても,ブレインマシンインターフェイスなど,セラピストの皆様に関連のある話題が紹介されております.


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